研究内容
主な研究と特長
ヒートアイランドを中心とする都市気候研究を出発点に、都市域における地表面改変に伴う熱収支・水収支の変化を主な研究対象としてきた。特に、アスファルト舗装面などの都市地表面構成物質の熱特性や市街地における対流熱伝達率の振舞いなど、都市気候のモデリングにおいて重要な諸パラメーター値の検討を念頭に研究を進めてきた。これらは、リモートセンシングによる熱画像データを都市気候研究へ応用するための基礎研究とも位置づけられる。また、サステナブルな街づくりという観点から、緑地や水面の熱的効果の評価とその利用、および『風通し』のよい街づくりのためプランニング手法を風洞実験・実測調査などを中心に研究を進めてきた。具体的なテーマは、以下のとおりである。
市街地における建物外表面対流熱伝達率に関する研究
リモートセンシングによる広域的な表面温度情報を都市域の顕熱フラックス評価に活かすことを目的に、建物外表面の対流熱伝達率の振る舞い−建物形状や周辺状況による変化、同一建物内における位置による差異、などを研究してきた。実スケールでの建物近傍気流性状との関連、ならびに風洞実験による検討を濾紙蒸発法を用いて行った。また、エリア平均の地表面対流伝達率を塩分濃度法を用いて検討した。
(参考文献1) 自然風下における窓面対流物質伝達率の実測−都市域における建物外表面対流熱伝達率に関する実験的研究(その1) Download 1.0MB
(参考文献2) 都市表面における対流物質伝達率に関する風洞実験 −都市域における建物外表面対流熱伝達率に関する実験的研究(その2) Download 1.1MB
(参考文献3) 都市表面における対流物質伝達率に関する風洞実験(続報)−都市域における建物外表面対流熱伝達率に関する実験的研究(その3) Download 1.1MB
(参考文献4) 自然風下における窓面対流物質伝達率の実測(続報)−都市域における建物外表面対流熱伝達率に関する実験的研究(その4) Download 1.1MB
(参考文献5) 市街地の蒸発量に及ぼす建物周辺気流の影響に関する実験的研究 Download 1.0MB
(参考文献6) 市街地の蒸発量に及ぼす建物周辺気流の影響に関する実験的研究 Download 1.0MB
(参考文献7) 実大スケール都市キャノピーの表面対流熱伝達率分布に関する観測 Download 1.0MB
都市内河川の微気象的効果とその有効利用に関する研究
土地の高度利用が進んだ都市域において河川は連続したオープンスペースとして貴重な存在である。風は粗度の大きい市街地を避け、河川上を選択的に吹き抜ける。とりわけ、海陸風が発達する沿岸都市では、空調排熱と高温化する構造物で耐え難い暑さとなる夏季日中、冷源としてのポテンシャルを維持したまま海風を市街地の奥深くまで導き、ヒートアイランドを分断する役割を果たす。このような「風の道」の効果を、野外実測と河川模型を用いた風洞実験により検討した。
(参考文献1) 臨海都市における中小河川の風の道効果−東京・目黒川における微気象観測 Download 4.8MB
(参考文献2) 都市気候に及ぼす河川水の熱的影響に関する実測研究−隅田川における熱収支と周辺影響の検討 Download 0.4MB
(参考文献3) 都市内河川の微気象的影響範囲に及ぼす周辺建物配列の影響に関する風洞実験 Download 0.7MB
(参考文献4) 都市内河川が周辺の温熱環境に及ぼす効果に関する研究 Download 1.1MB
(参考文献5) 都市内河川が周辺の温熱環境に及ぼす効果に関する研究(続報)− 水平および鉛直的影響範囲の検討 Download 1.0MB
(参考文献6) 都市内河川による暑熱環境の緩和効果 Download 3.7MB
街路空間の熱収支と「風通し」に関する研究
都市熱環境を形成する基本単位である街路空間を対象に、そこにおける熱収支と気流性状を野外実測と数値シミュレーションにより検討した。熱や汚染質の拡散を支配する「風通し」の定量的評価と街路形状の設計指針の提案を目指した。
(参考文献1) 建物高さ変化による密集街区の風通しの改善に関する風洞実験 Download 1.2MB
(参考文献2) 汐留エリアの高層ビル群による風環境の変化に関する風洞実験 Download 2.0MB
(参考文献3) 街路空間における放射量と温度の空間平均と変動−新宿御苑周辺市街地を例として Download 1.0MB
(参考文献4) 都市域における下向長波放射量の移動観測 Download 0.6MB
都市緑地の環境調節効果に関する研究
熱環境の観点からみた「みどり」の効果を野外実測を中心に検討した。特に、緑地の規模による効果の差や気象要素との関連について考察した。
(参考文献1) 皇居の冷気生成機能と周辺市街地への熱的影響に関する実測研究 Download 4.5MB
(参考文献2) 都市内緑地の冷気のにじみ出し現象 Download 10.4MB
(参考文献3) 都市域における樹木の蒸散特性-オアシス効果に関する野外実験 Download 0.5MB
「緑のカーテン」の熱環境改善効果
小学校を中心に環境教育の一環として展開されていた「緑のカーテン」は、東日本大震災以降、手軽に取り組める節電対策として一般家庭でも注目が高まっている。緑のカーテンがもたらす涼しさのメカニズムを、詳細な実測をベースに明らかにした。
(参考文献1) 緑のカーテンが教室の温熱環境に及ぼす効果 Download 1.0MB
(参考文献2) 緑のカーテンは周囲空気を冷却するか? Download 0.9MB
住宅の通風性能の定量的評価のための実大風洞実験
「自然通風」は、高温多湿な我が国の夏に対処する手法として最も重要なものであるが、その定量的な設計手法は必ずしも確立されているとは言い難く、設計者の経験や勘に任されているのが実状である。一方、近年の環境共生志向の高まりと省エネルギーという観点から、その重要性が再評価されつつある。これまでは、無窓状態での壁面風圧差を基準とした単純な通風量推定しか行われておらず、風向による開口部の流量係数の変化や乱流成分による通風は全く無視されてきた。これらの諸点を実験的に把握し、新しい通風性能評価手法の確立を目指して研究を行った。
(参考文献1) 実大建物模型を用いた通風研究専用風洞実験施設の特性  Download 1.0MB
(参考文献2) 通風における室内気流分布の形成要因に関する考察−実大建物模型を含む風洞実験施設を用いた通風に関する研究−  Download 1.0MB
(参考文献3) 実大建物風洞による通風時の室内表面熱伝達率分布の測定  Download 1.0MB
リモートセンシングによる都市の熱環境解析
都市域における地表面被覆と表面温度の関連について、人工衛星および航空機リモートセンシングならびに赤外線放射カメラによる熱画像を用いて解析を進めた。
今後に残された課題
サステナブルな街づくりの施策として、『風の道』や『みどり』の配置が各地で考案されているが、その具体的な効果と定量的な評価手法については検討の余地が残されている。これまでの蓄積を踏まえ、より一般性のある評価指針の提案が必要である。『気候解析図』と『計画指針図』の作成は、これまでの成果の集大成であり、GISデータとのリンクを含め、完成を目指している。また今後は、緑地や水面の物理的な効果に基づく評価のみではなく、生物環境としての評価も考慮していくため、生態分野との連携も今まで以上に進めていくべきである。
測定風景